「職人でいる覚悟」 山下達郎が語る仕事-3 :asahi.com(朝日新聞社):就職・転職ニュース
魂の叫びだけで
100曲は書けない
音楽の世界では、大きく二つの働き方があります。作品を自ら作り表現する側、作り手を助けることでビジネスをする側。作り手を目指すといっても、ロックンロールの場合、ギターコードを三つ知っていれば曲が作れてしまう。でもその程度では100曲は書けません。自分の魂の叫びがいくら強くても、すぐに限界が来るのは冷徹な事実です。音楽表現を長く続けていくためには、継続的な訓練と学習が必要なのです。
この世界は見切りが早く、3年くらいやって芽が出ないと簡単に切り捨てられてしまう。レコード会社の責任もありますが、プロとしてお金を稼ぐというのはどういうことか、趣味でやるのと何が違うのか、若い時から考えなくてはいけないと思う。「俺はいい曲を書ける天才だ」といくら言ってみても、それにお金を払ってくれる人がなければ自称にすぎない。逆に500円でも千円でもギャラをもらえば、金額に関係なくプロフェッショナルの責任と権利が生じてくる。
「夢は必ずかなう」という言葉が独り歩きしている時代ですが、僕は「夢はかなわない確率のほうがずっと高い」と思う人間です。ですから、懸命に努力し、その結果夢がかなわなかった時にはどうするのか、それをも想定して仕事をするべきではないか。「夢」は魅力的で力があるけれど、あくまで結果であって、夢を最初から暴走させてはいけないのです。
技術変化の波も
泳がなくてはならない
僕がまだ若かった1980年代中期、押し寄せてきたオーディオ機器のデジタル化に翻弄(ほんろう)され、腹を立てていました。アナログメディアの限界による変化ではなく、メーカーが頭打ちになった需要を回復するために、レコードからCDへとデジタル化を推し進めていった結果、制作行程を根本的に変えなければならず、またその未完成さに作り手は振り回されました。
だからといって、いつまでも文句を言っているわけにもいかない。なぜならポピュラーミュージックというものは時代とともに生きている音楽だからです。僕は職人の魂で仕事をしたいと思いますが、自分の昔の価値観や経験則にこだわり過ぎるとたちまち時代に取り残される。それを避けるためには必死に自己変革や学習を続けるしかないのです。
以前のような響きが出なくなったとか、ちょっとしたニュアンスが得られないとか、その結果、こうしたらどうか、ああすればどうかと「たられば」の鬼になってしまった時代もありましたが、でもそうやって迷ったことに後悔はありません。自分の音楽性さえぶれていなければ、必ず改善できる。大切なのは音楽の作り手として何が重要か、自分はこれでいいのかという自問でしょうね。勢いと熱だけでは続かないのが仕事です。夢を抱きながらも、冷静さも併せ持って欲しいと思います。(談)